安全衛生教育
安全衛生教育は、労働者の就業に当たって必要な安全衛生に関する知識等を付与するため実施されるものであり、労働災害防止の実行を期す上で極めて重要な施策といえます。それは労働者の安全衛生意識の普及・定着を促すための貴重な機会であり、職場に置ける安全衛生に関する様々な立場にある者に対してその機会を提供することで、各事業場の労働災害の減少と安全衛生水準の向上に大きく寄与することが期待されます。
このため、厚生労働省では、雇入れ時教育、作業内容変更時教育、特別教育、職長等教育、危険有害業務従事者及び安全衛生業務従事者に対する能力向上教育等の法定教育はもとより、法定外教育のものであってもその推進を促進するために、「安全衛生教育等推進要綱」を定め、教育等の今後の在り方、進め方を示しています。
また、安全衛生教育は、それぞれの事業場に即して、どのような教育が、どの対象者に必要なのかを十分検討したうえで教育・訓練計画を立て、これに基づき実施していくことが重要です。
事業場の規模によっては、安全衛生教育を独自で実施することが困難な場合もあるので、このような事業場に対しては労働災害防止団体等が開催する講習会等を活用して積極的に参加させることや、労働安全衛生コンサルタント会の指導・支援をうけて事業場で教育を実施する活動もあることから、適切な方法を選択することが必要となります。
法定教育と適用法令
労働安全衛生法では、第6章「労働者の就業に当たっての措置」の第59条から第62条において、「労働災害を防止するためには、機械の本質的安全化等災害要因の中の物的要因を除去するとともに、作業につく労働者の安全衛生教育の徹底等も極めて重要な施策である。」という点に鑑み、以下の法定教育が規定されています。
法定教育 |
法令・規則、指針 |
実施主体 |
実施者・教習機関 |
1)雇い入れ時教育 |
法第59条第1項、規則第35条 |
事業者 |
事業者等 |
2)作業内容変更時教育 |
法第59条第2項、規則第35条 |
事業者 |
事業者等 |
3)特別教育 |
法第59条第3項、規則第36条、安全衛生特別教育規程 |
事業者 |
事業者等 |
4)職長等の教育 |
法第60条、規則第40条 |
事業者 |
事業者等 |
5)危険有害業務従事者教育 |
法第60条の2、規則第40条、安全衛生教育指針(*1) |
事業者 |
事業者等 |
6)安全管理者選任時研修 |
規則第5条、告示第24号基発0224004号 |
事業者 |
安全管理者選任時研修の講師要件を満たす者 |
7)安全管理者等、その他労働災害の防止のための業務従事者能力向上教育 |
法第19条の2、能力向上教育指針(*2) |
事業者 |
事業者等 |
8)安全衛生推進者、衛生推進者養成講習 |
法第12条の2 |
事業者 |
都道府県労働局長登録教習機関 |
9)安全衛生推進者、衛生推進者初任時の能力向上教育 |
法第19条の2、能力向上教育指針(*2) |
事業者 |
事業者等 |
10)技能講習又は免許の習得 |
法第61条の1、規則第41条 |
事業者 |
都道府県労働局長登録教習機関、指定試験機関 |
法:労働安全衛生法、規則:労働安全衛生規則
(*1):平成27年8月31日 安全衛生教育指針公示第5号
(*2):平成18年3月31日 能力向上教育指針公示第5号
- 安全衛生教育の実施記録は事業所で保存しておく必要があります。
- 雇い入れ時の安全衛生教育は、入社後直ちに実施することが重要です。また、パートタイマーやアルバイト労働者にも確実に実施する必要があります。
- 作業内容変更時の安全衛生教育は、転換した作業に就く前に確実に実施する必要があります。
- 職長教育は、新たに部下を持ったときにおこなうものです。職長として発令される前に実施する必要がありますので、あらかじめ職長として発令される可能性のある労働者に対して計画的に受講させるように留意してください。
- 法令に基づく特別教育、免許・技能講習等はそれを必要する業務に就く労働者全員に対して受講させたり、資格を取得させたりする必要があります。受講済み者や有資格者が事業場内にいればよいというものではありません。
雇い入れ時教育、作業内容変更時教育
労働安全衛生法第59条第1項、2項により「事業者は、労働者を雇い入れ、又は労働者の作業内容を変更したときは、当該労働者に対し、遅滞なく、次の事項のうちその当該労働者が従事する業務に関する安全又は衛生のための必要な事項について、教育を行わなければなりません。
労働安全衛生規則第35条(雇い入れ時教育)では、以下の具体的事項が規定されています。
- 機械等、原材料等の危険性又は有害性及びこれらの取扱い方法に関すること。
- 安全装置、有害物抑制装置又は保護具の性質及びこれらの取扱い方法に関すること。
- 作業手順に関すること。
- 作業開始前の点検に関すること。
- 当該業務に関して発生するおそれのある疾病の原因及び予測に関すること。
- 整理、整頓及び清潔の保持に関すること。
- 事故時における応急措置及び避難に関すること。
- その他、業務に関する安全又は衛生のために必要な事項
ただし、労働安全衛生法施行令第2条第3号に掲げる業種の事業場の労働者については、
(1)〜(4)の項目について教育を省略することができます。
特記事項:
- 令第2条第3号に掲げる業種とは、第1号、第二号以外のその他の業種です。
特定の機械や有害物質などの取扱いがないサービス業、社会福祉施設、飲食店や、オフィスワークが中心の業種なども含まれます。
- 具体的な事項の全部又は一部に関して十分な知識及び技能を有していると認められる労働者については、当該事項についての教育を省略することができます。
雇い入れ時の教育・作業内容変更時の教育は、実施義務がある事業者に代わって日本労働安全衛生コンサルタント会神奈川支部が実施をお手伝いします。
職長等教育
労働安全衛生法第60条に基づき、事業者は新たに職務につくことになった職長その他の作業中の労働者を直接指揮又は監督する者(作業主任者を除く。)に対し、次の事項について安全又は衛生のための教育を行わなければなりません。
- 作業方法の決定及び労働者の配置に関すること。
- 労働者に対する指導又は監督の仕方に関すること。
- リスクアセスメントの実施に関すること。(安衛則第40条)
- 異常時等における措置に関すること。(同上)
- その他、現場監督者として行うべき労働災害防止活動に関すること。(同上)
労働安全衛生施行令第19条で定める、職長等の教育を行うべき業種は次の通りです。
- 建設業
- 製造業
(食料品・たばこ製造業、繊維工業、紙加工製造業、繊維製品製造業、他は除く)
- 電気業
- ガス業
- 自動車整備業
- 機械修理業
法第60条の安全又は衛生のための教育は、以下の項目について12時間以上行わなければなりません。
但し、建設業における安全衛生責任者教育を含む場合は、14時間以上となります。
- 作業方法の決定及び労働者の配置に関すること(2時間)
1)作業手順の定め方
2)労働者の適正な配置の方法
- 労働者に対する指導又は監督の方法に関すること(2.5時間)
1)指導及び教育の方法
2)作業中における監督及び指示の方法
- 危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置に関すること(4時間)
1)危険性又は有害性等の調査の方法
2)危険性又は有害性等の調査の結果に基づき講ずる措置
3)設備、作業等の具体的な改善の方法
- 異常時等における措置に関すること(1.5時間)
1)異常時における措置
2)災害発生時における措置
- その他現場監督者として行うべき労働災害防止活動に関すること(2時間)
1)作業に係る設備及び作業場の保守管理の方法
2)労働災害防止についての関心の保持及び労働者の創意工夫を引き出す方法
特別教育
特別教育は、労働安全衛生法第59条第3項で、「危険又は有害な業務で、厚生労働省令で定めるものに労働者をつかせるときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務に関する安全又は衛生のための特別の教育を行なわなければならない。」となっています。
特別教育の種類は、労働安全衛生規則第36条「特別教育を必要とする業務」の1号から41号までに定められており、第37条には、「特別教育の科目の全部又は一部について十分な知識及び技能を有していると認められる労働者については、当該科目についての教育を省略することができる。」となっています。
なお、特別教育の細目については、厚生労働大臣が定め、告示として制定されております。
能力向上教育
事業者は、労働安全衛生法第19条の2(安全管理者等に対する教育等)で、「事業場における安全衛生の水準の向上を図るため、安全管理者等その他労働災害の防止のための業務に従事する者に対し、これらの者が従事する業務に関する能力の向上を図るための教育、講習等を行い、又はこれらを受ける機会を与えるように努めなければならない」と規定されています。
この規程に基づき、能力向上教育に関して、「労働災害の防止のための業務に従事する者に対する能力向上教育の指針」で以下のように公表されています。
教育の
対象者 |
安全管理者、衛生管理者、安全衛生推進者、衛生推進者、作業主任者、元方安全衛生管理者、店社安全衛生業務従事者、その他安全衛生業務従事者 |
種類 |
初任時教育、定期教育、随時教育 |
内容 |
1)初任時教育
業務に関する全般的事項
2)定期教育及び随時教育
労働災害の動向、社会情勢、職場環境の変化等に対応した事項など
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時間 |
原則として1日間程度とする。別表の能力向上教育カリキュラムによる。 |
方法 |
講義方式、事例研究方式、討議方式等教育の内容に応じて効果の上がる方式。 |
講師 |
当該業務についての最新の知識並びに教育技法についての知識及び経験を有する者とする。 |
推進体制の整備等 |
1)事業者自ら行うほか、安全衛生団体等に委託して実施できるものとする。
事業者又は委託を受けた安全衛生団体等は予め実施にあたって実施責任者を
定めるとともに、実施計画を作成する。
2)実施した能力向上教育記録を個人別に保管する。
3)能力向上教育は、原則として就業時間内に実施する。
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日本労働安全衛生コンサルタント会神奈川支部(以下、神奈川支部と称す)が支援・提供する内容は以下の通りとなります。この教育の実施主体者である事業者に代わり、経験豊富な神奈川支部のコンサルタントがお手伝いに伺います。
- 講師派遣
職長等教育、特別教育、安全管理者選任時研修及び能力向上教育に際し、社内に適切な知識を有する者がいない場合は、要請に応じて神奈川支部から講師を派遣します。
- 出前講習
リスクアセスメント研修等の法定教育以外の教育で事業者が実施できない場合は、神奈川支部がテキスト・講習資料等の作成から講義、演習等を実施します。
*神奈川支部が提供する講師派遣及び出前講習の詳細は、
別紙職長等教育及び
別紙能力向上教育別紙職長等教育をご覧ください。